2008.12.18 産経新聞

2008年5月十和田湖や北海道のオオハクチョウから高病原性の鳥インフルエンザウイルスが検出されたとニュースが流れた.
日本での鳥インフルエンザ問題は数年前から散発的にみられてきた.ほとんどが養鶏場での集団発生であった.もともと野鳥は低病原性の鳥インフルエンザに感染しているが,ほとんどの場合発症しないといわれている.それが養鶏場の鶏に感染し,突然変異で高病原性のウイルスとなり,一気に感染拡大したと思われる.逆に感染した鶏と接触した野鳥(カラスなど)に高病原性ウイルスが逆感染したと思われる例も報告されている.その野鳥が他の養鶏場に行き感染を拡大させる.もちろん野鳥の中にも低病原性から突然変異で高病原性になったウイルスにより発症するものもいるだろう.その場合山中でひっそり死亡し感染は拡大しないと思われる.一カ所で多くの鳥を飼っている養鶏場では一気に感染が広がるのとは違う.

今回渡り鳥のオオハクチョウの感染である.ハクチョウ類は観光地では餌付けされている.そういったところには集中的に多くのハクチョウが飛来する.さらにその餌を求め他の渡り鳥(カモ類など)も多く集まる.集中的に飛来する場所での感染は一気に拡大する可能性がある.越冬地などでは自然状態でもある程度鳥は集まるが,餌付けで人為的に多くの鳥を集めることは今回のような感染拡大リスクから考えると問題である.また発症には潜伏期というものがあり,感染直後に次の渡りの中継地へ移動しそこで発症すれば,さらに感染が拡大することになる.感染拡大を最小限に留めるには人間の都合で人為的に餌付けで鳥を集めたりせず,自然の状態に任せるのが一番なのかもしれない.

ハクチョウは地域によっては立派な観光資源となっている.鳥インフルエンザは基本的には人へ感染はしないといわれている.しかし濃厚な接触では感染する可能性もあり,外国では死亡例も報告されている.場合によっては観光地での経済的被害も発生するだろう.

周辺地域では養鶏場などへの感染拡大が心配だ.ハクチョウが直接養鶏場に近づくことはないが,餌付けの餌を求めカラスなども集まってくるようなところでは,カラスなどの鳥に感染し,その鳥が養鶏場に侵入することが考えられる.鶏に感染した場合,その鶏舎の鳥はすべて処分され,さらに風評被害も加わり,養鶏家の損害は大変なものになる.

一方で,このような状況でハクチョウなどの野鳥が悪者に吊し上げられないか心配だ.まさか渡り鳥をすべて捕まえて処分しろという人はいないと思うが(実際不可能である),少なくとも餌付けを中止する可能性はある.さらに積極的に追い払おうとする人も出てくるかもしれない.今まで餌付けにより過剰に集まってきた鳥は来年もまた飛来するだろう.人が餌付けで鳥を集めておいて,次の時には突然餌付けを中止され,自然界の餌のみで越冬できるだろうか.今回の問題を機に将来餌付けをやめ自然な状態にまかせるとしても,どういった手順で実施するか十分検討して行う必要があろう.

渡来地での鳥への餌付けについては以前からその賛否についていろいろいわれてきた.今回の鳥インフルエンザ騒動において,今までとは全く違った意味で餌付けについて考える必要があると思う.

ところで鳥やその糞を直接触るなど濃厚な接触がなければ鳥から鳥インフルエンザに感染することはない.また鶏肉や鶏卵を食して感染することはない.接触ほど濃厚ではないがバードウオッチャーは一般の人より鳥に接することが多い.とくに集団渡来地やコロニーなどでバードウオッチングしていれば,乾燥した鳥の糞が風に舞い飛んできて吸入する可能性だってある.(鳥インフルエンザウイルスが乾燥などにどのくらい耐性があるが知らないが…)もしかするとバードウオッチャーは普段から抗原に曝露されており,鳥インフルエンザに対する抗体ができていたりしないだろうか.ちょっと興味のあるところである.

-MAY.2008

2008年12月18日の産経新聞に左上のような記事が載っていた.
心配していたことが現実のものとなってしまったようだ.昨年まで餌付けの餌で越冬してきた鳥たちが,自然界の餌だけで越冬するのに十分な量を確保できるだろうか.その一方で多くの鳥が一カ所に集結し,そこで鳥インフルエンザが発生した場合の被害拡大を考えると,やはり自然の状態に任せ越冬地は分散させるのがいいのだろうか.

どちらにせよ人間の都合による急な生活環境の変化で,鳥たちも不安な年末年始を迎えることになりそうだ.

-Dec.2008